ゐるのもあります。
耕平は二へんも三べんも、大きく息をつきました。
野原の上の空などは、あんまり青くて、光ってうるんで、却《かへ》って気の毒なくらゐです。
その気の毒なそらか、すきとほる風か、それともうしろの畑のへりに立って、玉蜀黍《たうもろこし》のやうな赤髪を、ぱちゃぱちゃした小さなはだしの子どもか誰か、とにかく斯《か》う歌ってゐます。
[#ここから3字下げ]
「馬こは、みんな、居なぐなた。
仔っこ馬《ま》もみんな随《つ》いで行《い》た。
いまでぁ野原もさぁみしん[#「ん」は小書き]ぢゃ、
草ぱどひでりあめばがり。」
[#ここで字下げ終わり]
実は耕平もこの歌をききました。ききましたから却って手を大きく振って、
「ふん、一向さっぱりさみしぐなぃんぢゃ。」と云《い》ったのです。
野原はさびしくてもさびしくなくても、とにかく日光は明るくて、野葡萄はよく熟してゐます。そのさまざまな草の中を這《は》って、真っ黒に光って熟してゐます。
そこで耕平は、葡萄をとりはじめました。そして誰でも、野原で一ぺん何かをとりはじめたら、仲々やめはしないものです。ですから耕平もかまはないで置い
前へ
次へ
全10ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング