しらあぶないことが起りさうでした。そこで
「ボッ」といふ爆発のやうな音が、どこからとなく聞えて来ました。耕平は豆を叩く手をやめました。
「ぢゃ、今の音聴だが。」
「何だべぁんす。」
「きっとどの山が噴火ン[#「ン」は小書き]したな。秋田の鳥海山だべが。よっぽど遠ぐの方だよだぢゃい。」
「ボッ。」音がまた聞えます。
「はぁでな、又やった。きたいだな。」
「ボッ。」
「をぉがしな。」
「どごだべぁん[#「ん」は小書き]す。」
「どごでもいがべ。此処《こご》まで来なぃがべ。」
 それからずうっとしばらくたって、又音がします。
 それからしばらくしばらくたってから、又聞えます。
 その西の空の眼《め》の痛いほど光る雲か、すきとほる風か、それとも向ふの柏林《かしはばやし》の中にはひった小さな黒い影法師か、とにかく誰《たれ》かが斯う歌ひました。
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「一昨日《をどでな》、みぃぞれ降ったれば
 すゞらんの実ぃ、みんな赤ぐなて、
 雪の支度のしろうさぎぁ、
 きいらりきいらど歯ぁみがぐ。」
[#ここで字下げ終わり]
 ところが
「ボッ。」
 音はまだやみません。
 耕平はしばらく馬
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