》のなかに入るのでした。
なぜそんなに寒くなるかといふのに皮がうすいためで、なぜ皮が薄いかといふのに、それは土用に生れたからです。やつぱり僕が悪いんだ、仕方ないなあと、かま[#「かま」に傍点]猫は考へて、なみだをまん円な眼一杯にためました。
けれども事務長さんがあんなに親切にして下さる、それにかま[#「かま」に傍点]猫仲間のみんながあんなに僕の事務所に居るのを名誉に思つてよろこぶのだ、どんなにつらくてもぼくはやめないぞ、きつとこらへるぞと、かま[#「かま」に傍点]猫は泣きながら、にぎりこぶしを握りました。
ところがその事務長も、あてにならなくなりました。それは猫なんていふものは、賢いやうでばかなものです。ある時、かま[#「かま」に傍点]猫は運わるく風邪《かぜ》を引いて、足のつけねを椀《わん》のやうに腫《は》らし、どうしても歩けませんでしたから、たうとう一日やすんでしまひました。かま[#「かま」に傍点]猫のもがきやうといつたらありません。泣いて泣いて泣きました。納屋の小さな窓から射《さ》し込んで来る黄いろな光をながめながら、一日一杯眼をこすつて泣いてゐました。
その間に事務所では
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