頭をついて机から落ちました。それが大分ひどい音でしたから、事務長の黒猫もびつくりして立ちあがつて、うしろの棚から、気付けのアンモニア水の瓶《びん》を取りました。ところが三毛猫はすぐ起き上つて、かんしやくまぎれにいきなり、
「かま[#「かま」に傍点]猫、きさまはよくも僕を押しのめしたな。」とどなりました。
今度はしかし、事務長がすぐ三毛猫をなだめました。
「いや、三毛君。それは君のまちがひだよ。
かま[#「かま」に傍点]猫君は好意でちよつと立つただけだ、君にさはりも何もしない。しかしまあ、こんな小さなことは、なんでもありやしないぢやないか。さあ、えゝとサントンタンの転居届けと。えゝ。」事務長はさつさと仕事にかかりました。そこで三毛猫も、仕方なく、仕事にかかりはじめましたがやつぱりたびたびこはい目をしてかま[#「かま」に傍点]猫を見てゐました。
こんな工合《ぐあひ》ですからかま[#「かま」に傍点]猫はじつにつらいのでした。
かま[#「かま」に傍点]猫はあたりまへの猫にならうと何べん窓の外にねて見ましたが、どうしても夜中に寒くてくしやみが出てたまらないので、やつぱり仕方なく竈《かまど
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