ろこんで笑ひ出しました。
「どうもおさわがせいたしましてお申しわけございません。」それからとなりのかま[#「かま」に傍点]猫をじろつと見て腰掛けました。
 みなさんぼくはかま[#「かま」に傍点]猫に同情します。
 それから又五六日たつて、丁度これに似たことが起つたのです。こんなことがたびたび起るわけは、一つは猫どもの無精なたちと、も一つは猫の前あし即《すなは》ち手が、あんまり短いためです。今度は向ふの三番書記の三毛猫が、朝仕事を始める前に、筆がポロポロころがつて、たうとう床に落ちました。三毛猫はすぐ立てばいいのを、骨惜みして早速前に虎猫《とらねこ》のやつた通り、両手を机越しに延ばして、それを拾ひ上げようとしました。今度もやつぱり届きません。三毛猫は殊にせいが低かつたので、だんだん乗り出して、たうとう足が腰掛けからはなれてしまひました。かま[#「かま」に傍点]猫は拾つてやらうかやるまいか、この前のこともありますので、しばらくためらつて眼をパチパチさせて居ましたが、たうとう見るに見兼ねて、立ちあがりました。
 ところが丁度この時に、三毛猫はあんまり乗り出し過ぎてガタンとひつくり返つてひどく
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