。ところが虎猫は急にひどく怒り出して、折角かま[#「かま」に傍点]猫の出した弁当も受け取らず、手をうしろに廻して、自暴《やけ》にからだを振りながらどなりました。
「何だい。君は僕にこの弁当を喰べろといふのかい。机から床の上へ落ちた弁当を君は僕に喰へといふのかい。」
「いいえ、あなたが拾はうとなさるもんですから、拾つてあげただけでございます。」
「いつ僕が拾はうとしたんだ。うん。僕はただそれが事務長さんの前に落ちてあんまり失礼なもんだから、僕の机の下へ押し込まうと思つたんだ。」
「さうですか。私はまた、あんまり弁当があつちこつち動くもんですから…………」
「何だと失敬な。決闘を………」
「ジヤラジヤラジヤラジヤラン。」事務長が高くどなりました。これは決闘をしろと云つてしまはせない為《ため》に、わざと邪魔をしたのです。
「いや、喧嘩《けんくわ》するのはよしたまへ。かま[#「かま」に傍点]猫君も虎猫君に喰べさせようといふんで拾つたんぢやなからう。それから今朝云ふのを忘れたが虎猫君は月給が十銭あがつたよ。」
虎猫は、はじめは恐《こは》い顔をしてそれでも頭を下げて聴いてゐましたが、たうとう、よ
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