ところがほかの三人の書記は、いかにも馬鹿《ばか》にしたやうに横目で見て、ヘツとわらつてゐました。かま[#「かま」に傍点]猫は一生けん命帳面を読みあげました。
「トバスキー酋長《しうちやう》、徳望あり。眼光|炯々《けいけい》たるも物を言ふこと少しく遅し、ゲンゾスキー財産家、物を言ふこと少しく遅けれども眼光炯々たり。」
「いや、それでわかりました。ありがたう。」
ぜいたく猫は出て行きました。
こんな工合《ぐあひ》で、猫にはまあ便利なものでした。ところが今のおはなしからちやうど半年ばかりたつたとき、たうとうこの第六事務所が廃止になつてしまひました。といふわけは、もうみなさんもお気づきでせうが、四番書記のかま[#「かま」に傍点]猫は、上の方の三人の書記からひどく憎まれてゐましたし、ことに三番書記の三毛猫は、このかま[#「かま」に傍点]猫の仕事をじぶんがやつて見たくてたまらなくなつたのです。かま[#「かま」に傍点]猫は、何とかみんなによく思はれようといろいろ工夫をしましたが、どうもかへつていけませんでした。
たとへば、ある日となりの虎猫《とらねこ》が、ひるのべんたうを、机の上に出してた
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