はじぶんの帳面を繰りました。「夏猫は全然旅行に適せず」するとどういふわけか、この時みんながかま[#「かま」に傍点]猫の方をじろつと見ました。
「冬猫もまた細心の注意を要す。函館《はこだて》付近、馬肉にて釣らるる危険あり。特に黒猫は充分に猫なることを表示しつつ旅行するに非《あらざ》れば、応々|黒狐《くろぎつね》と誤認せられ、本気にて追跡さるることあり。」
「よし、いまの通りだ。貴殿は我輩のやうに黒猫ではないから、まあ大した心配はあるまい。函館で馬肉を警戒するぐらゐのところだ。」
「さう、で、向ふでの有力者はどんなものだらう。」
「三番書記、ベーリング地方有力者の名称を挙げよ。」
「はい、えゝと、ベーリング地方と、はい、トバスキー、ゲンゾスキー、二名であります。」
「トバスキーとゲンゾスキーといふのは、どういふやうなやつらかな。」
「四番書記、トバスキーとゲンゾスキーについて大略を述べよ。」
「はい。」四番書記のかま[#「かま」に傍点]猫は、もう大原簿のトバスキーとゲンゾスキーとのところに、みじかい手を一本づつ入れて待つてゐました。そこで事務長もぜいたく猫も、大へん感服したらしいのでした。
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