拶しました。
「いや、お早う、ひどい風だね。」白猫も忙がしさうに仕事にかかりました。その時かま[#「かま」に傍点]猫は力なく立つてだまつておじぎをしましたが、白猫はまるで知らないふりをしてゐます。
ガタン、ピシヤリ。
「ふう、ずゐぶんひどい風だね。」事務長の黒猫が入つて来ました。
「お早うございます。」三人はすばやく立つておじぎをしました。かま[#「かま」に傍点]猫もぼんやり立つて、下を向いたまゝおじぎをしました。
「まるで暴風だね、えゝ。」黒猫は、かま[#「かま」に傍点]猫を見ないで斯《か》う言ひながら、もうすぐ仕事をはじめました。
「さあ、今日は昨日のつづきのアンモニアツクの兄弟を調べて回答しなければならん。二番書記、アンモニアツク兄弟の中で、南極へ行つたのは誰《たれ》だ。」仕事がはじまりました。かま[#「かま」に傍点]猫はだまつてうつむいてゐました。原簿がないのです。それを何とか云ひたくつても、もう声が出ませんでした。
「パン、ポラリスであります。」虎猫が答へました。
「よろしい、パン、ポラリスを詳述せよ。」と黒猫が云ひます。ああ、これはぼくの仕事だ、原簿、原簿、とかま[#「か
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