らくしんとしました。
 さて次の日です。
 かま[#「かま」に傍点]猫は、やつと足のはれが、ひいたので、よろこんで朝早く、ごうごう風の吹くなかを事務所へ来ました。するといつも来るとすぐ表紙を撫《な》でて見るほど大切な自分の原簿が、自分の机の上からなくなつて、向ふ隣り三つの机に分けてあります。
「ああ、昨日は忙がしかつたんだな、」かま[#「かま」に傍点]猫は、なぜか胸をどきどきさせながら、かすれた声で独りごとしました。
 ガタツ。扉《と》が開いて三毛猫がはひつて来ました。
「お早うございます。」かま[#「かま」に傍点]猫は立つて挨拶《あいさつ》しましたが、三毛猫はだまつて腰かけて、あとはいかにも忙がしさうに帳面を繰つてゐます。ガタン。ピシヤン。虎猫がはひつて来ました。
「お早うございます。」かま[#「かま」に傍点]猫は立つて挨拶しましたが、虎猫は見向きもしません。
「お早うございます。」三毛猫が云ひました。
「お早う、どうもひどい風だね。」虎猫もすぐ帳面を繰りはじめました。
 ガタツ、ピシヤーン。白猫《しろねこ》が入つて来ました。
「お早うございます。」虎猫《とらねこ》と三毛猫が一緒に挨
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