。そんなに人が悪くない。わきに居るのは幽霊でない。みんな立派な娘さんだよ。娘さんたちはみんな緑色のマントを着てるよ。」
「緑色のマントは着てゐるさ。しかしあんなマントの着様が一体あるもんかな。足から頭の方へ逆《さかさま》に着てゐるんだ。それにマントを六枚も重ねて着るなんて、聞いた事も見た事もない贅沢《ぜいたく》だ。おごりの頂上だ。」
「ははあ、しかし世の中はさまざまだぜ。たとへば兎《うさぎ》なんと云ふものは耳が天までとゞいてゐる。そのさきは細くなって見えないくらゐだ。豚なんといふものは鼻がらっぱになってゐる。口の中にはとんぼのやうなすきとほった羽が十枚あるよ。また人といふものを知ってゐるかね。人といふものは頭の上の方に十六本の手がついてゐる。そんなこともあるんだ。それにたうもろこしの娘さんたちの長いつやつやした髪の毛は評判なもんだ。」
「よして呉《く》れよ。七十枚の白い歯からつやつやした長い髪の毛がすぐ生えてゐるなんて考へても胸が悪くなる。」
「そんなことはない。まあもっとそばまで行って見よう。おや。誰《たれ》か行ったぞ。おいおい。あれがたったいま云ったひとだ。ひとだ。あいつはほんたう
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