にこはいもんだ。何をするかこゝへかくれて見てゐよう。そら、ちょっと遠めがねを貸すから。」
「あゝ、よく見える。何だ手が十六本あるって。おれには五本ばかりしか見えないよ。あっ。あの幽霊をつかまへてるよ。」
「どれ貸してごらん、ああ、とってるとってる。みんながりがりとってるねえ。たうもろこしは恐《こは》がってみんな葉をざあざあうごかしてゐるよ。娘さんたちは髪の毛をふって泣いてゐる。ぼくならちゃんと十六本の手が見えるねえ。」
「どら、貸した。なるほど十六本かねえ、四本は大へん小さいなあ。あゝあとからまた一人来た。あれは女の子だらうねえ。」
「どう、ちょっと、さうだよ。あれは女の子だよ。ほういまねえあの女の子がたうもろこしの娘さんの髪毛をむしってねえ、口へ入れてそらへ吹いたよ。するとそれがぱっと青白い火になって燃えあがったよ。」
「こっちへ来るとこはいなあ、」
「来ないよ。あゝ、もう行ってしまったよ。何か叫んでゐるやうだねえ。」
「歌ってるんだ。けれどもぼくたちよりはへただねえ。」
「へただ、ぼく少しうたってきかしてやらうかな。ぼくうたったらきっとびっくりしてこっちを向くねえ。」
「うたってご
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