に》げだしました。
蛙がちゃうど五百ばかりはねたときもう一ぴきの蛙がびっくりしてこっちを見てゐるのに会ひました。
「おゝい、どうしたい。いったい誰《たれ》ににらまれたんだ。」
「どうしてどうして、全くもう大変だ。カマジン国の兵隊がたうとうやって来た。みんな二ひきか三びきぐらゐ幽霊をわきにかかへてる。その幽霊は歯が七十枚あるぞ。あの幽霊にかじられたら、もうとてもたまらんぜ。かあいさうに、麻はもうみんな食はれてしまった。みんなまっすぐな、いい若い者だったのになあ。ばりばり骨まで噛《か》じられたとは本当に人ごととも思はれんなあ。」
「何かい、兵隊が幽霊をつれて来たのかい、そんなにこはい幽霊かい。」
「どうしてどうしてまあ見るがいゝ。どの幽霊も青白い髪の毛がばしゃばしゃで歯が七十枚おまけに足から頭の方へ青いマントを六枚も着てゐる」
「いまどこにゐるんだ。」
「おまへのめがねで見るがいゝあすこだよ。麻ばたけの向ふ側さ。おれは眼鏡《めがね》も何もすてて来たよ。」
あたらしい蛙は遠めがねを出して見ました。
「何だあれは幽霊でも何でもないぜ。あれはたうもろこしといふやつだ。おれは去年から知ってるよ
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