に沿った細い路《みち》を大股《おほまた》に行くのでしたがやっぱり土神のことは知ってゐたと見えて時々気づかはしさうに土神の祠《ほこら》の方を見てゐました。けれども木樵《きこり》には土神の形は見えなかったのです。
土神はそれを見るとよろこんでぱっと顔を熱《ほて》らせました。それから右手をそっちへ突き出して左手でその右手の手首をつかみこっちへ引き寄せるやうにしました。すると奇体なことは木樵はみちを歩いてゐると思ひながらだんだん谷地《やち》の中に踏み込んで来るやうでした。それからびっくりしたやうに足が早くなり顔も青ざめて口をあいて息をしました。土神は右手のこぶしをゆっくりぐるっとまはしました。すると木樵はだんだんぐるっと円くまはって歩いてゐましたがいよいよひどく周章《あわ》てだしてまるではあはあはあはあしながら何べんも同じ所をまはり出しました。何でも早く谷地から遁《に》げて出ようとするらしいのでしたがあせってもあせっても同じ処《ところ》を廻ってゐるばかりなのです。たうとう木樵はおろおろ泣き出しました。そして両手をあげて走り出したのです。土神はいかにも嬉《うれ》しさうににやにやにやにや笑って寝
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