そべったまゝそれを見てゐましたが間もなく木樵がすっかり逆上《のぼ》せて疲れてばたっと水の中に倒れてしまひますと、ゆっくりと立ちあがりました。そしてぐちゃぐちゃ大股にそっちへ歩いて行って倒れてゐる木樵のからだを向ふの草はらの方へぽんと投げ出しました。木樵は草の中にどしりと落ちてううんと云ひながら少し動いたやうでしたがまだ気がつきませんでした。
土神は大声に笑ひました。その声はあやしい波になって空の方へ行きました。
空へ行った声はまもなくそっちからはねかへってガサリと樺《かば》の木の処にも落ちて行きました。樺の木ははっと顔いろを変へて日光に青くすきとほりせはしくせはしくふるへました。
土神はたまらなさうに両手で髪を掻《か》きむしりながらひとりで考へました。おれのこんなに面白くないといふのは第一は狐《きつね》のためだ。狐のためよりは樺の木のためだ。狐と樺の木とのためだ。けれども樺の木の方はおれは怒ってはゐないのだ。樺の木を怒らないためにおれはこんなにつらいのだ。樺の木さへどうでもよければ狐などはなほさらどうでもいゝのだ。おれはいやしいけれどもとにかく神の分際だ。それに狐のことなどを気に
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