目散に走って行きました。息がつゞかなくなってばったり倒れたところは三つ森山の麓《ふもと》でした。
 土神は頭の毛をかきむしりながら草をころげまはりました。それから大声で泣きました。その声は時でもない雷のやうに空へ行って野原中へ聞えたのです。土神は泣いて泣いて疲れてあけ方ぼんやり自分の祠《ほこら》に戻りました。

     (五)[#「(五)」は縦中横]

 そのうちたうとう秋になりました。樺の木はまだまっ青でしたがその辺のいのころぐさはもうすっかり黄金《きん》いろの穂を出して風に光りところどころすゞらんの実も赤く熟しました。
 あるすきとほるやうに黄金《きん》いろの秋の日土神は大へん上機嫌《じゃうきげん》でした。今年の夏からのいろいろなつらい思ひが何だかぼうっとみんな立派なもやのやうなものに変って頭の上に環《わ》になってかかったやうに思ひました。そしてもうあの不思議に意地の悪い性質もどこかへ行ってしまって樺《かば》の木なども狐《きつね》と話したいなら話すがいゝ、両方ともうれしくてはなすのならほんたうにいゝことなんだ、今日はそのことを樺の木に云ってやらうと思ひながら土神は心も軽く樺の木の
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