たです。」
「まあ、立派だわねえ、ほんたうに立派だわ。」
 ふんと狐の謙遜《けんそん》のやうな自慢のやうな息の音がしてしばらくしいんとなりました。
 土神はもう居ても立っても居られませんでした。狐の言ってゐるのを聞くと全く狐の方が自分よりはえらいのでした。いやしくも神ではないかと今まで自分で自分に教へてゐたのが今度はできなくなったのです。あゝつらいつらい、もう飛び出して行って狐を一裂きに裂いてやらうか、けれどもそんなことは夢にもおれの考へるべきことぢゃない、けれどもそのおれといふものは何だ結局狐にも劣ったもんぢゃないか、一体おれはどうすればいゝのだ、土神は胸をかきむしるやうにしてもだえました。
「いつかの望遠鏡まだ来ないんですの。」樺の木がまた言ひました。
「えゝ、いつかの望遠鏡ですか。まだ来ないんです。なかなか来ないです。欧州航路は大分混乱してますからね。来たらすぐ持って来てお目にかけますよ。土星の環《わ》なんかそれぁ美しいんですからね。」
 土神は俄《にはか》に両手で耳を押へて一目散に北の方へ走りました。だまってゐたら自分が何をするかわからないのが恐ろしくなったのです。
 まるで一
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