称の法則に叶ふって云ったって実は対称の精神を有《も》ってゐるといふぐらゐのことが望ましいのです。」
「ほんたうにさうだと思ひますわ。」樺の木のやさしい声が又しました。土神は今度はまるでべらべらした桃いろの火でからだ中燃されてゐるやうにおもひました。息がせかせかしてほんたうにたまらなくなりました。なにがそんなにおまへを切なくするのか、高《たか》が樺の木と狐との野原の中でのみじかい会話ではないか、そんなものに心を乱されてそれでもお前は神と云へるか、土神は自分で自分を責めました。狐《きつね》が又云ひました。
「ですから、どの美学の本にもこれくらゐのことは論じてあるんです。」
「美学の方の本沢山おもちですの。」樺《かば》の木はたづねました。
「えゝ、よけいもありませんがまあ日本語と英語と独乙《ドイツ》語のなら大抵ありますね。伊大利《イタリー》のは新らしいんですがまだ来ないんです。」
「あなたのお書斎、まあどんなに立派でせうね。」
「いゝえ、まるでちらばってますよ、それに研究室兼用ですからね、あっちの隅《すみ》には顕微鏡こっちにはロンドンタイムス、大理石のシィザアがころがったりまるっきりごったご
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