ろうろしていましたが考えれば考えるほど何もかもしゃくにさわって来るらしいのでした。そしてとうとうこらえ切れなくなって、吠《ほ》えるようにうなって荒々《あらあら》しく自分の谷地《やち》に帰って行ったのでした。

   (三)[#「(三)」は縦中横]

 土神の棲《す》んでいる所は小さな競馬場ぐらいある、冷たい湿地《しっち》で苔《こけ》やからくさやみじかい蘆《あし》などが生えていましたが又《また》所々にはあざみやせいの低いひどくねじれた楊《やなぎ》などもありました。
 水がじめじめしてその表面にはあちこち赤い鉄の渋《しぶ》が湧《わ》きあがり見るからどろどろで気味も悪いのでした。
 そのまん中の小さな島のようになった所に丸太で拵《こしら》えた高さ一間ばかりの土神の祠《ほこら》があったのです。
 土神はその島に帰って来て祠の横に長々と寝《ね》そべりました。そして黒い瘠《や》せた脚《あし》をがりがり掻《か》きました。土神は一羽の鳥が自分の頭の上をまっすぐに翔《か》けて行くのを見ました。すぐ土神は起き直って「しっ」と叫《さけ》びました。鳥はびっくりしてよろよろっと落ちそうになりそれからまるではねも
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