何もしびれたようにだんだん低く落ちながら向うへ遁《に》げて行きました。
土神は少し笑って起きあがりました。けれども又すぐ向うの樺《かば》の木の立っている高みの方を見るとはっと顔色を変えて棒立ちになりました。それからいかにもむしゃくしゃするという風にそのぼろぼろの髪毛《かみけ》を両手で掻きむしっていました。
その時谷地の南の方から一人の木樵《きこり》がやって来ました。三つ森山の方へ稼《かせ》ぎに出るらしく谷地のふちに沿った細い路《みち》を大股《おおまた》に行くのでしたがやっぱり土神のことは知っていたと見えて時々気づかわしそうに土神の祠の方を見ていました。けれども木樵には土神の形は見えなかったのです。
土神はそれを見るとよろこんでぱっと顔を熱《ほて》らせました。それから右手をそっちへ突《つ》き出して左手でその右手の手首をつかみこっちへ引き寄せるようにしました。すると奇体《きたい》なことは木樵はみちを歩いていると思いながらだんだん谷地の中に踏《ふ》み込んで来るようでした。それからびっくりしたように足が早くなり顔も青ざめて口をあいて息をしました。土神は右手のこぶしをゆっくりぐるっとまわし
前へ
次へ
全22ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング