ものは黒い土から出るのだがなぜこう青いもんだろう。黄や白の花さえ咲くんだ。どうもわからんねえ。」
「それは草の種子が青や白をもっているためではないでございましょうか。」
「そうだ。まあそう云えばそうだがそれでもやっぱりわからんな。たとえば秋のきのこのようなものは種子もなし全く土の中からばかり出て行くもんだ、それにもやっぱり赤や黄いろやいろいろある、わからんねえ。」
「狐さんにでも聞いて見ましたらいかがでございましょう。」
樺の木はうっとり昨夜《ゆうべ》の星のはなしをおもっていましたのでつい斯《こ》う云ってしまいました。
この語《ことば》を聞いて土神は俄《にわ》かに顔いろを変えました。そしてこぶしを握《にぎ》りました。
「何だ。狐? 狐が何を云い居《お》った。」
樺の木はおろおろ声になりました。
「何も仰《お》っしゃったんではございませんがちょっとしたらご存知かと思いましたので。」
「狐なんぞに神が物を教わるとは一体何たることだ。えい。」
樺の木はもうすっかり恐《こわ》くなってぷりぷりぷりぷりゆれました。土神は歯をきしきし噛《か》みながら高く腕を組んでそこらをあるきまわりました。
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