微《かす》かなあかりにすかして頁《ページ》を繰《く》りました。そのハイネの詩集にはロウレライやさまざま美しい歌がいっぱいにあったのです。そして樺の木は一晩中よみ続けました。ただその野原の三時すぎ東から金牛宮《きんぎゅうきゅう》ののぼるころ少しとろとろしただけでした。
夜があけました。太陽がのぼりました。
草には露《つゆ》がきらめき花はみな力いっぱい咲きました。
その東北の方から熔《と》けた銅の汁《しる》をからだ中に被《かぶ》ったように朝日をいっぱいに浴びて土神がゆっくりゆっくりやって来ました。いかにも分別くさそうに腕を拱《こまね》きながらゆっくりゆっくりやって来たのでした。
樺の木は何だか少し困ったように思いながらそれでも青い葉をきらきらと動かして土神の来る方を向きました。その影《かげ》は草に落ちてちらちらちらちらゆれました。土神はしずかにやって来て樺の木の前に立ちました。
「樺の木さん。お早う。」
「お早うございます。」
「わしはね、どうも考えて見るとわからんことが沢山ある、なかなかわからんことが多いもんだね。」
「まあ、どんなことでございますの。」
「たとえばだね、草という
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