はいって行きました。小藪《こやぶ》のそばを通るとき、さるとりいばらが緑色《みどりいろ》のたくさんのかぎを出して、王子の着物《きもの》をつかんで引き留《と》めようとしました。はなそうとしてもなかなかはなれませんでした。
王子はめんどうくさくなったので剣《つるぎ》をぬいていきなり小藪《こやぶ》をばらんと切ってしまいました。
そして二人はどこまでもどこまでも、むくむくの苔《こけ》やひかげのかずらをふんで森の奥《おく》の方へはいって行きました。
森の木は重《かさ》なり合ってうす暗《ぐら》いのでしたが、そのほかにどうも空まで暗《くら》くなるらしいのでした。
それは、森の中に青くさし込《こ》んでいた一本の日光の棒《ぼう》が、ふっと消《き》えてそこらがぼんやりかすんできたのでもわかりました。
また霧《きり》が出たのです。林の中はまもなくぼんやり白くなってしまいました。もう来た方がどっちかもわからなくなってしまったのです。
王子はためいきをつきました。
大臣《だいじん》の子もしきりにあたりを見ましたが、霧《きり》がそこらいっぱいに流《なが》れ、すぐ眼《め》の前の木だけがぼんやりかすんで見
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