うへ逃《に》げるのでした。そして二人が白樺《しらかば》の木の前まで来たときは、虹《にじ》はもうどこへ行ったか見えませんでした。
「ここから虹《にじ》は立ったんだね。ルビーのお皿《さら》が落《お》ちてないか知らん」
 二人は足でけむりのような茶色の草穂《くさぼ》をかきわけて見ましたが、ルビーの絵《え》の具皿《ぐざら》はそこに落《お》ちていませんでした。
「ね、虹《にじ》は向《む》こうへ逃《に》げるときルビーの皿《さら》もひきずって行ったんだね」
「そうだろうと思います」
「虹《にじ》はいったいどこへ行ったろうね」
「さあ」
「あ、あすこにいる。あすこにいる。あんな遠くにいるんだよ」
 大臣《だいじん》の子はそっちを見ました。まっ黒な森の向《む》こう側《がわ》から、虹《にじ》は空高く大きく夢《ゆめ》の橋《はし》をかけていたのでした。
「森の向《む》こうなんだね。行ってみよう」
「また逃《に》げるでしょう」
「行ってみようよ。ね。行こう」
 二人《ふたり》はまた歩き出しました。そしてもう柏《かしわ》の森まで来ました。
 森の中はまっくらで気味《きみ》が悪いようでした。それでも王子は、ずんずん
前へ 次へ
全23ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング