しないよ」
 大臣《だいじん》の子は小さな樺《かば》の木の下を通るとき、その大きな青い帽子《ぼうし》を落《お》としました。そして、あわててひろってまた一生けん命《めい》に走りました。
 みんなの声ももう聞こえませんでした。そして野原はだんだんのぼりになってきました。
 二人はやっと馳《か》けるのをやめて、いきをせかせかしながら、草をばたりばたりと踏《ふ》んで行きました。
 いつか霧《きり》がすうっとうすくなって、お日さまの光が黄金色《きんいろ》に透《すきとお》ってきました。やがて風が霧《きり》をふっと払《はら》いましたので、露《つゆ》はきらきら光り、きつねのしっぽのような茶色の草穂《くさぼ》は一面《いちめん》波《なみ》を立てました。
 ふと気がつきますと遠くの白樺《しらかば》の木のこちらから、目もさめるような虹《にじ》が空高く光ってたっていました。白樺《しらかば》のみきは燃《も》えるばかりにまっかです。
「そら虹《にじ》だ。早く行ってルビーの皿《さら》を取ろう。早くおいでよ」
 二人はまた走り出しました。けれどもその樺《かば》の木に近づけば近づくほど美しい虹《にじ》はだんだん向《む》こ
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