虹の絵具皿
(十力の金剛石)
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)霧《きり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|羽《わ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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 むかし、ある霧《きり》のふかい朝でした。
 王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃《はり》でたたんだ自分のお室《へや》から、ひょいっと芝生《しばふ》へ飛《と》びおりました。
 そして蜂雀《はちすずめ》のついた青い大きな帽子《ぼうし》を急《いそ》いでかぶって、どんどん向《む》こうへかけ出しました。
「王子さま。王子さま。どちらにいらっしゃいますか。はて、王子さま」
 と、年よりのけらいが、室《へや》の中であっちを向《む》いたりこっちを向《む》いたりして叫《さけ》んでいるようすでした。
 王子は霧《きり》の中で、はあはあ笑《わら》って立ちどまり、ちょっとそっちを向《む》きましたが、またすぐ向《む》き直《なお》って音をたてないように剣《つるぎ》のさやをにぎりながら、どんどんどんどん大臣《だいじん》の家の方へかけ
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