ました。
芝生《しばふ》の草はみな朝の霧《きり》をいっぱいに吸《す》って、青く、つめたく見えました。
大臣《だいじん》の家のくるみの木が、霧《きり》の中から不意《ふい》に黒く大きくあらわれました。
その木の下で、一人《ひとり》の子供《こども》の影《かげ》が、霧《きり》の向《む》こうのお日様《ひさま》をじっとながめて立っていました。
王子は声をかけました。
「おおい。お早う。遊《あそ》びに来たよ」
その小さな影《かげ》はびっくりしたように動いて、王子の方へ走って来ました。それは王子と同じ年の大臣《だいじん》の子でした。
大臣《だいじん》の子はよろこんで顔をまっかにして、
「王子さま、お早うございます」と申《もう》しました。
王子が口早にききました。
「お前さっきからここにいたのかい。何してたの」
大臣《だいじん》の子が答えました。
「お日さまを見ておりました。お日さまは霧《きり》がかからないと、まぶしくて見られません」
「うん。お日様は霧《きり》がかかると、銀《ぎん》の鏡《かがみ》のようだね」
「はい、また、大きな蛋白石《たんぱくせき》の盤《ばん》のようでございます」
「
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