大力これを見て、はやこの上はこの身を以て親の餌食《えじき》とならんものと、いきなり堅《かた》く身をちぢめ、息を殺してはりより床《ゆか》へと落ちなされたのじゃ。その痛さより、身は砕《くだ》くるかと思えども、なおも命はあらしゃった。されども慈悲《じひ》もある人の、生きたと見てはとても食《とう》べはせまいとて、息を殺し眼《め》をつぶっていられたじゃ。そしてとうとう願かなってその親子をば養われたじゃ。その功徳《くどく》より、疾翔大力様は、ついに仏にあわれたじゃ。そして次第に法力《ほうりき》を得て、やがてはさきにも申した如く、火の中に入れどもその毛一つも傷つかず、水に入れどもその羽一つぬれぬという、大力の菩薩《ぼさつ》となられたじゃ。今このご文《もん》は、この大菩薩が、悪業《あくごう》のわれらをあわれみて、救護《くご》の道をば説かしゃれた。その始めの方じゃ。しばらく休んで次の講座で述べるといたす。
 南無《なむ》疾翔大力、南無疾翔大力。
 みなの衆しばらくゆるりとやすみなされ。」
 いちばん高い木の黒い影が、ばたばた鳴って向うの低い木の方へ移ったようでした。やっぱりふくろうだったのです。
 それ
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