見す見す餓死を待ったのじゃ。この時、疾翔大力は、上よりこれをながめられあまりのことにしばしは途方《とほう》にくれなされたが、日ごろの恩を報ずるは、ただこの時と勇みたち、つかれた羽をうちのばし、はるか遠くの林まで、親子の食《じき》をたずねたげな。一念天に届《とど》いたか、ある大林のその中に、名さえも知らぬ木なれども、色もにおいもいと高き、十の木の実をお見附《みつ》けなされたじゃ。さればもはや疾翔大力は、われを忘れて、十たびその実をおのがあるじの棟《むね》に運び、親子の上より落されたじゃ。その十たび目は、あまりの飢えと身にあまる、その実の重さにまなこもくらみ、五たび土に落ちたれど、ただ報恩の一念に、ついご自分にはその実を啄《ついば》みなさらなんだ、おもいとどいてその十番目の実を、無事に親子に届けたとき、あまりの疲《つか》れと張りつめた心のゆるみに、ついそのままにお倒れなされたじゃ。されどもややあって正気に復し下の模様を見てあれば、いかにもその子は勢《せい》も増し、ただいたけなく悦《よろこ》んでいる如《ごと》くなれども、親はかの実も自らは口にせなんじゃ、いよいよ餓《う》えて倒れるようす、疾翔
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