講義が又はじまりました。
「さらば疾翔大力は、いかなればとて、われわれ同様|賤《いや》しい鳥の身分より、その様なる結構のお身となられたか。結構のことじゃ。ご自分も又ほかの一切のものも、本願のごとくにお救いなされることなのじゃ。さほど尊いご身分にいかなことでなられたかとなれば、なかなか容易のことではあらぬぞよ。疾翔大力さまはもとは一疋の雀でござらしゃったのじゃ。南天竺《なんてんじく》の、ある家《や》の棟《むね》に棲《す》まわれた。ある年非常な饑饉《ききん》が来て、米もとれねば木の実もならず、草さえ枯《か》れたことがござった。鳥もけものも、みな飢《う》え死にじゃ人もばたばた倒《たお》れたじゃ。もう炎天《えんてん》と飢渇《きかつ》の為《ため》に人にも鳥にも、親兄弟の見さかいなく、この世からなる餓鬼道《がきどう》じゃ。その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間《あさま》しさはかなさに、泪《なみだ》をながしていらしゃれた。中にもその家の親子二人、子はまだ六つになるならず、母親とてもその大飢渇に、どこから食《じき》を得るでなし、もうあすあすに二人もろとも
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