めよう。みなの衆座にお戻りなされ。今夜は二十六日じゃ、来月二十六日はみなの衆も存知の通り、二十六夜待ちじゃ。月天子《がってんし》山のはを出《い》でんとして、光を放ちたまうとき、疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかい》波羅夷《はらい》の三尊《さんぞん》が、東のそらに出現まします。今宵《こよい》は月は異なれど、まことの心には又あらはれ給《たま》わぬことでない。穂吉どのも、ただ一途《いちず》に聴聞の志じゃげなで、これからさっそく講ずるといたそう。穂吉どの、さぞ痛かろう苦しかろう、お経の文とて仲々耳には入るまいなれど、そのいたみ悩《なや》みの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲《じひ》を刻みつけるじゃぞ、いいかや、まことにそれこそ菩提《ぼだい》のたねじゃ。」
梟の坊さんの声が又少し変りました。一座はしいんとなりました。林の中にもう鳴き出した秋の虫があります。坊さんはしばらく息をこらして気を取り直しそれから厳《いか》めしい声で願をたててから昨夜の続きをはじめました。
「梟鵄《きょうし》救護《くご》章 梟鵄救護章
諸《もろもろ》の仁者《じんしゃ》掌《て》を合せて至心に聴《き》き給
前へ
次へ
全44ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング