、わが身は裂けて、血は流れるじゃ。燃えるようなる、二つの眼《め》が光ってわれを見詰《みつ》むるじゃ。どうじゃ、声さえ発《た》とうにも、咽喉《のど》が狂《くる》うて音が出ぬじゃ。これが則《すなわ》ち利爪《りそう》深くその身に入り、諸《もろもろ》の小禽痛苦又声を発するなしの意なのじゃぞ。されどもこれは、取らるる鳥より見たるものじゃ。捕《と》る此方《こなた》より眺《なが》むれば、飛躍してこれを握《つか》むと斯《こ》うじゃ。何の罪なく眠れるものを、ただ一打《ひとうち》ととびかかり、鋭《するど》い爪《つめ》でその柔《やわらか》な身体《からだ》をちぎる、鳥は声さえよう発てぬ、こちらはそれを嘲笑《あざわら》いつつ、引き裂くじゃ。何たるあわれのことじゃ。この身とて、今は法師にて、鳥も魚も襲《おそ》わねど、昔《むかし》おもえば身も世もあらぬ。ああ罪業《ざいごう》のこのからだ、夜毎《よごと》夜毎の夢とては、同じく夜叉の業をなす。宿業《しゅくごう》の恐ろしさ、ただただ呆《あき》るるばかりなのじゃ。」
風がザアッとやって来ました。木はみな波のようにゆすれ、坊さんの梟も、その中に漂《ただよ》う舟《ふね》のよう
前へ
次へ
全44ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング