ぐり、赤い火星ももう西ぞらに入りました。
 梟の坊さんはしばらくゴホゴホ咳嗽《せき》をしていましたが、やっと心を取り直して、又講義をつづけました。
「みなの衆、まず試《ため》しに、自分がみそさざいにでもなったと考えてご覧《ろう》じ。な。天道《てんとう》さまが、東の空へ金色《こんじき》の矢を射なさるじゃ、林樹は青く枝《えだ》は揺《ゆ》るる、楽しく歌をばうたうのじゃ、仲よくおうた友だちと、枝から枝へ木から木へ、天道さまの光の中を、歌って歌って参るのじゃ、ひるごろならば、涼《すず》しい葉陰《はかげ》にしばしやすんで黙《だま》るのじゃ、又ちちと鳴いて飛び立つじゃ、空の青板をめざすのじゃ、又小流れに参るのじゃ、心の合うた友だちと、ただ暫《しば》らくも離れずに、歌って歌って参るのじゃ、さてお天道さまが、おかくれなされる、からだはつかれてとろりとなる、油のごとく、溶《と》けるごとくじゃ。いつかまぶたは閉じるのじゃ、昼の景色を夢《ゆめ》見るじゃ、からだは枝に留《とど》まれど、心はなおも飛びめぐる、たのしく甘《あま》いつかれの夢の光の中じゃ。そのとき俄かにひやりとする。夢かうつつか、愕《おどろ》き見れば
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