もないじゃ、内に深く残忍の想を潜《ひそ》め、外又恐るべく悲しむべき夜叉相《やしゃそう》を浮べ、密《ひそ》やかに忍《しの》んで参ると斯う云うことじゃ。このご説法のころは、われらの心も未《いま》だ仲々善心もあったじゃ、小禽の家に至るとお説きなされば、はや聴法《ちょうほう》の者、みな慄然《りつぜん》として座に耐《た》えなかったじゃ。今は仲々そうでない。今ならば疾翔大力さま、まだまだ強く烈《はげ》しくご説法であろうぞよ。みなの衆、よくよく心にしみて聞いて下され。
 次のご文は、時に小禽|既《すで》に終日日光に浴し、歌唄跳躍して、疲労をなし、唯々甘美の睡眠中にあり。他人事ではないぞよ。どうじゃ、今朝も今朝とて穂吉どの処《ところ》を替《か》えてこの身の上じゃ、」
 説教の坊さんの声が、俄《にわか》におろおろして変りました。穂吉のお母さんの梟はまるで帛《きぬ》を裂《さ》くように泣き出し、一座の女の梟は、たちまちそれに従《つ》いて泣きました。
 それから男の梟も泣きました。林の中はただむせび泣く声ばかり、風も出て来て、木はみなぐらぐらゆれましたが、仲々|誰《たれ》も泣きやみませんでした。星はだんだんめ
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