くこの通りじゃ。ただもうみんなかなしいことばかりなのじゃ。どうして又あんなおとなしい子が、人につかまるような処に出たもんじゃろうなあ。」
 説教の木のとなりに居た鼠《ねずみ》いろの梟は恭々《うやうや》しく答えました。
「今朝あけ方近くなってから、兄弟三人で出掛《でか》けたそうでございます。いつも人の来るような処ではなかったのでございます。そのうち朝日が出ましたので、眩《まぶ》しさに三疋とも、しばらく眼を瞑《つぶ》っていたそうでございます。すると、丁度子供が二人、草刈《くさか》りに来て居ましたそうで、穂吉もそれを知らないうちに、一人がそっとのぼって来て、穂吉の足を捉《つか》まえてしまったと申します。」
「あああわれなことじゃ、ふびんなはなしじゃ、あんなおとなしいいい子でも、何の因果じゃやら。できるなればわしなどで代ってやりたいじゃ。」
 林はまたしいんとなりました。しばらくたって、またばたばたと一疋の梟が飛んで戻《もど》って参りました。
「穂吉さんはね、臼の上をあるいていたよ。あの赤の紐を引き裂《さ》こうとしていたようだったけれど、なかなか容易じゃないんだ。私はもう、どこか隙間《すきま》
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