まま、はじめからおしまいまで、しんとしていました。
 その木の一番高い枝にとまりからだ中銀いろで大きく頬《ほお》をふくらせ今の講義のやすみのひまを水銀のような月光をあびてゆらりゆらりといねむりしているのはたしかに梟のおじいさんでした。
 月はもう余程《よほど》高くなり、星座もずいぶんめぐりました。蝎座《さそりざ》は西へ沈《しず》むとこでしたし、天の川もすっかり斜《なな》めになりました。
 向うの低い松の木から、さっきの年老《としよ》りの坊さんの梟が、斜に飛んでさっきの通り、説教の枝にとまりました。
 急に林のざわざわがやんで、しずかにしずかになりました。風のためか、今まで聞えなかった遠くの瀬《せ》の音が、ひびいて参りました。坊さんの梟はゴホンゴホンと二つ三つせきばらいをして又《また》はじめました。
「爾《そ》の時に、疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかい》に告げて曰《いわ》く、諦《あきらか》に聴《き》け、諦に聴け。善《よ》くこれを思念せよ。我今|汝《なんじ》に、梟鵄《きょうし》諸《もろもろ》の悪禽《あくきん》、離苦《りく》解脱《げだつ》の道を述べんと。
 爾迦夷《るかい》、則《
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