仏にあはれたぢゃ。そして次第に法力《ほふりき》を得て、やがてはさきにも申した如く、火の中に入れどもその毛一つも傷つかず、水に入れどもその羽一つぬれぬといふ、大力の菩薩《ぼさつ》となられたぢゃ。今このご文は、この大菩薩が、悪業《あくごふ》のわれらをあはれみて、救護の道をば説かしゃれた。その始めの方ぢゃ。しばらく休んで次の講座で述べるといたす。
南無《なむ》疾翔大力、南無疾翔大力。
みなの衆しばらくゆるりとやすみなされ。」
いちばん高い木の黒い影が、ばたばた鳴って向ふの低い木の方へ移ったやうでした。やっぱりふくろふだったのです。
それと同時に、林の中は俄《には》かにばさばさ羽の音がしたり、嘴《くちばし》のカチカチ鳴る音、低くごろごろつぶやく音などで、一杯になりました。天の川が大分まはり大熊星《おほぐまぼし》がチカチカまたゝき、それから東の山脈の上の空はぼおっと古めかしい黄金《きん》いろに明るくなりました。
前の汽車と停車場で交換したのでせうか、こんどは南の方へごとごと走る音がしました。何だか車のひゞきが大へん遅く貨物列車らしかったのです。
そのとき、黒い東の山脈の上に何かちらっ
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