二十六夜
宮沢賢治

−−−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)北上《きたかみ》川

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)我今|汝《なんぢ》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]
−−−−

      ※

 旧暦の六月二十四日の晩でした。
 北上《きたかみ》川の水は黒の寒天よりももっとなめらかにすべり獅子鼻《ししはな》は微《かす》かな星のあかりの底にまっくろに突き出てゐました。
 獅子鼻の上の松林は、もちろんもちろん、まっ黒でしたがそれでも林の中に入って行きますと、その脚の長い松の木の高い梢《こずゑ》が、一本一本空の天の川や、星座にすかし出されて見えてゐました。
 松かさだか鳥だかわからない黒いものがたくさんその梢にとまってゐるやうでした。
 そして林の底の萱《かや》の葉は夏の夜の雫《しづく》をもうポトポト落して居《を》りました。
 その松林のずうっとずうっと高い処《ところ》で誰《たれ》かゴホゴホ唱
次へ
全42ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング