の身ぢゃ。」
梟《ふくろふ》の坊さんは一寸《ちょっと》声を切りました。今夜ももう一時の上《のぼ》りの汽車の音が聞えて来ました。その音を聞くと梟どもは泣きながらも、汽車の赤い明るいならんだ窓のことを考へるのでした。講釈がまた始まりました。
「心|暫《しば》らくも安らかなることなしと、どうぢゃ、みなの衆、たゞの一時《いっとき》でも、ゆっくりと何の心配もなく落ち着いたことがあるかの。もういつでもいつでもびくびくものぢゃ。一度《ひとたび》梟身《けうしん》を尽して又|新《あらた》に梟身を得《う》と斯《か》うぢゃ。泣いて悔やんで悲しんで、つひには年|老《と》る、病気になる、あらんかぎりの難儀をして、それで死んだら、もうこの様な悪鳥の身を離れるかとならば、仲々さうは参らぬぞや。身に染み込んだ罪業《ざいごふ》から、又梟に生れるぢゃ。斯《かく》の如《ごと》くにして百|生《しゃう》、二百生、乃至《ないし》劫《こふ》をも亙《わた》るまで、この梟身を免れぬのぢゃ。審《つまびらか》に諸の患難を蒙《かうむ》りて又尽くることなし。もう何もかも辛《つら》いことばかりぢゃ。さて今東の空は黄金《きん》色になられた。もう
前へ
次へ
全42ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング