月天子《ぐわってんし》がお出ましなのぢゃ。来月二十六夜ならば、このお光に疾翔大力《しっしょうたいりき》さまを拝み申すぢゃなれど、今宵《こよひ》とて又拝み申さぬことでない、みなの衆、ようくまごゝろを以て仰ぎ奉るぢゃ。」
二十六夜の金いろの鎌《かま》の形のお月さまが、しづかにお登りになりました。そこらはぼおっと明るくなり、下では虫が俄《には》かにしいんしいんと鳴き出しました。
遠くの瀬の音もはっきり聞えて参りました。
お月さまは今はすうっと桔梗《ききゃう》いろの空におのぼりになりました。それは不思議な黄金《きん》の船のやうに見えました。
俄かにみんなは息がつまるやうに思ひました。それはそのお月さまの船の尖《とが》った右のへさきから、まるで花火のやうに美しい紫いろのけむりのやうなものが、ばりばりばりと噴き出たからです。けむりは見る間にたなびいて、お月さまの下すっかり山の上に目もさめるやうな紫の雲をつくりました。その雲の上に、金いろの立派な人が三人まっすぐに立ってゐます。まん中の人はせいも高く、大きな眼でじっとこっちを見てゐます。衣のひだまで一一はっきりわかります。お星さまをちりばめた
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