うぢゃ、浮《うか》む瀬とてもあるまいぢゃ。昼は則《すなは》ち日光を懼《おそ》れ、又人|及《および》諸の強鳥を恐る。心|暫《しば》らくも安らかなることなし。これは流転の中の、つらい模様をわれらにわかるやう、直《ぢ》かに申されたのぢゃ。勿体《もったい》なくも、我等は光明の日天子《にってんし》をば憚《はば》かり奉る。いつも闇《やみ》とみちづれぢゃ。東の空が明るくなりて、日天子さまの黄金《きん》の矢が高く射出さるれば、われらは恐れて遁《に》げるのぢゃ。もし白昼にまなこを正しく開くならば、その日天子の黄金の征欠《そや》に伐《う》たれるぢゃ。それほどまでに我等は悪業《あくごふ》の身ぢゃ。又人及諸の強鳥を恐る。な。人を恐るゝことは、今夜今ごろ講ずることの限りでない。思ひ合せてよろしからう。諸の強鳥を恐る。鷹《たか》やはやぶさ、又さほど強くはなけれども日中なれば烏などまで恐れねばならぬ情ない身ぢゃ。はやぶさなれば空よりすぐに落ちて来て、こなたが小鳥をつかむときと同じやうなるありさまぢゃ、たちまち空で引き裂かれるぢゃ、少しのさからひをしたとて、何にもならぬ、げにもげにも浅間《あさま》しくなさけないわれら
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