まるから。」
穂吉はパチッと眼をひらきました。それから少し起きあがりました。見えない眼でむりに向ふを見ようとしてゐるやうでした。
「まあよかったね。やっぱりつかれてゐるんだらう。」女の梟たちは云ひ合ひました。
坊さんの梟はそこで云ひました。
「さあ、講釈をはじめよう。みなの衆座にお戻りなされ。今夜は二十六日ぢゃ、来月二十六日はみなの衆も存知の通り、二十六夜待ちぢゃ。月天子《ぐわってんし》山のはを出《い》でんとして、光を放ちたまふとき、疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかゐ》波羅夷《はらゐ》の三尊が、東のそらに出現まします。今宵《こよひ》は月は異なれど、まことの心には又あらはれ給はぬことでない。穂吉どのも、たゞ一途《いちづ》に聴聞《ちゃうもん》の志ぢゃげなで、これからさっそく講ずるといたさう。穂吉どの、さぞ痛からう苦しからう、お経の文とて仲々耳には入るまいなれど、そのいたみ悩みの心の中に、いよいよ深く疾翔大力さまのお慈悲を刻みつけるぢゃぞ、いゝかや、まことにそれこそ菩提《ぼだい》のたねぢゃ。」
梟の坊さんの声が又少し変りました。一座はしいんとなりました。林の中にもう鳴き出し
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