た秋の虫があります。坊さんはしばらく息をこらして気を取り直しそれから厳《いか》めしい声で願をたててから昨夜の続きをはじめました。
「梟鵄《けうし》救護《くご》章 梟鵄救護章
諸《もろもろ》の仁者《じんしゃ》掌《て》を合せて至心に聴き給へ。我今|疾翔大力《しっしょうたいりき》が威神力を享《う》けて梟鵄救護章の一節を講ぜんとす。唯《ただ》願ふらくはかの如来《にょらい》大慈《だいじ》大悲《だいひ》我が小願の中に於《おい》て大神力を現じ給ひ妄言《まうげん》綺語《きご》の淤泥《おでい》を化《け》して光明|顕色《けんじき》の浄瑠璃《じゃうるり》となし、浮華《ふくわ》の中より清浄《しゃうじゃう》の青蓮華《しゃうれんげ》を開かしめ給はんことを。至心欲願、南無仏南無仏南無仏。
爾《そ》の時に疾翔大力、爾迦夷《るかゐ》に告げて曰《いは》く、諦《あきらか》に聴け諦に聴け。善《よ》く之《これ》を思念せよ。我今|汝《なんぢ》に梟鵄|諸《もろもろ》の悪禽《あくきん》離苦《りく》解脱《げだつ》の道を述べんと。
爾迦夷|則《すなは》ち両翼を開張し、虔《うやうや》しく頸《くび》を垂れて座を離れ、低く飛揚して疾翔大
前へ
次へ
全42ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング