「戸のあいてる時をねらって赤子の頭を突いてやれ。畜生め。」
 梟の坊さんは、じっとみんなの云ふのを聴いてゐましたがこの時しづかに云ひました。
「いやいや、みなの衆、それはいかぬぢゃ。これほど手ひどい事なれば、必らず仇《あだ》を返したいはもちろんの事ながら、それでは血で血を洗ふのぢゃ。こなたの胸が霽《は》れるときは、かなたの心は燃えるのぢゃ。いつかはまたもっと手ひどく仇を受けるぢゃ、この身終って次の生《しゃう》まで、その妄執《まうしふ》は絶えぬのぢゃ。遂《つひ》には共に修羅《しゅら》に入り闘諍《とうさう》しばらくもひまはないぢゃ。必らずともにさやうのたくみはならぬぞや。」
 けたたましくふくろふのお母さんが叫びました。
「穂吉穂吉しっかりおし。」
 みんなびくっとしました。穂吉のお父さんもあわてて穂吉の居た枝に飛んで行きましたがとまる所がありませんでしたからすぐその上の枝にとまりました。穂吉のおぢいさんも行きました。みんなもまはりに集りました。穂吉はどうしたのか折られた脚をぷるぷる云はせその眼は白く閉ぢたのです。お父さんの梟は高く叫びました。
「穂吉、しっかりするんだよ。今お説教がはじ
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