って外へ連れて出たのでした。そのとき、ポキッと脚を折ったのです。その両脚は今でもまだしんしんと痛みます。眼を開いてもあたりがみんなぐらぐらして空さへ高くなったり低くなったりわくわくゆれてゐるやう、みんなの声も、たゞぼんやりと水の中からでも聞くやうです。ああ僕《ぼく》はきっともう死ぬんだ。こんなにつらい位ならほんたうに死んだ方がいゝ。それでもお父さんやお母さんは泣くだらう。泣くたって一体お父さんたちは、まだ僕の近くに居るだらうか、あゝ痛い痛い。穂吉は声もなく泣きました。
「あんまりひどいやつらだ。こっちは何一つ向ふの為《ため》に悪いやうなことをしないんだ。それをこんなことをして、よこす。もうだまってはゐられない。何かし返ししてやらう。」一|疋《ぴき》の若い梟《ふくろふ》が高く云ひました。すぐ隣りのが答へました。
「火をつけようぢゃないか。今度|屑焼《くづや》きのある晩に燃えてる長い藁《わら》を、一本あの屋根までくはへて来よう。なあに十本も二十本も運んでゐるうちにはどれかすぐ燃えつくよ。けれども火事で焼けるのはあんまり楽だ。何かも少しひどいことがないだらうか。」
又その隣りが答へました。
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