くろふのお父さんに云ひました。
「もうさうなっては仕方ない。お前は行って穂吉にそっと教へてやったらよからう、もうこの上は決してばたばたもがいたり、怒って人に噛《か》み付いたりしてはいけない。今日中|誰《たれ》もお前を殺さない処を見ると、きっと田螺《たにし》か何かで飼って置くつもりだらうから、今までのやうに温和《おとな》しくして、決して人に逆《さから》ふな、とな。斯《か》う云って教へて来たらよからう。」
梟《ふくろふ》のお父さんは、首を垂れてだまって聴いてゐました。梟の和尚《をしゃう》さんも遠くからこれにできるだけ耳を傾けてゐましたが大体そのわけがわかったらしく言ひ添へました。
「さうぢゃ、さうぢゃ。いゝ分別ぢゃ。序《ついで》に斯う教へて来なされ。このやうなひどい目にあうて、何悪いことしたむくいぢゃと、恨むやうなことがあってはならぬ。この世の罪も数知らず、さきの世の罪も数かぎりない事ぢゃほどに、この災難もあるのぢゃと、よくあきらめて、あんまりひとり嘆くでない、あんまり泣けば心も沈み、からだもとかく損《そこ》ねるぢゃ、たとへ足には紐《ひも》があるとも、今こゝへ来て、はじめてとまった処ぢゃ
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