、なかなか容易ぢゃないんだ。私はもう、どこか隙間《すきま》から飛び込んで行って、手伝ってあげようと、何べんも何べんも家のまはりを飛んで見たけれど、どこにもあいてる所はないんだらう。ほんたうに可哀さうだねえ、穂吉さんは、けれども泣いちゃゐないよ。」
梟のお母さんが、大きな眼を泣いてまぶしさうにしょぼしょぼしながら訊《たづ》ねました。
「あの家に猫《ねこ》は居ないやうでございましたか。」
「えゝ、猫は居なかったやうですよ。きっと居ないんです。ずゐぶん暫《しば》らく、私はのぞいてゐたんですけれど、たうとう見えなかったのですから。」
「そんならまあ安心でございます。ほんたうにみなさまに飛んだご迷惑をかけてお申し訳けもございません。みんな穂吉の不注意からでございます。」
「いゝえ、いゝえ、そんなことはありません。あんな賢いお子さんでも災難といふものは仕方ありません。」
林中の女のふくろふがまるで口口に答へました。その音は二町ばかり西の方の大きな藁屋根《わらやね》の中に捕はれてゐる穂吉の処《ところ》まで、ほんのかすかにでしたけれども聞えたのです。
ふくろふのおぢいさんが度々声がかすれながらふ
前へ
次へ
全42ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング