た。
 梟の坊さんは、じっと星ぞらを見あげて、それからしづかにたづねました。
「この世界は全くこの通りぢゃ。たゞもうみんなかなしいことばかりなのぢゃ。どうして又あんなおとなしい子が、人につかまるやうな処《ところ》に出たもんぢゃらうなあ。」
 説教の木のとなりに居た鼠《ねずみ》いろの梟は恭々しく答へました。
「今朝あけ方近くなってから、兄弟三人で出掛けたさうでございます。いつも人の来るやうな処ではなかったのでございます。そのうち朝日が出ましたので、眩《まぶ》しさに三疋とも、しばらく眼を瞑《つぶ》ってゐたさうでございます。すると、丁度子供が二人、草刈りに来て居ましたさうで、穂吉もそれを知らないうちに、一人がそっとのぼって来て、穂吉の足を捉《つか》まへてしまったと申します。」
「あゝあはれなことぢゃ、ふびんなはなしぢゃ、あんなおとなしいいゝ子でも、何の因果ぢゃやら。できるなればわしなどで代ってやりたいぢゃ。」
 林はまたしいんとなりました。しばらくたって、またばたばたと一疋の梟が飛んで戻って参りました。
「穂吉さんはね、臼の上をあるいてゐたよ。あの赤の紐を引き裂かうとしてゐたやうだったけれど
前へ 次へ
全42ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング