這《は》い、
鷹《たか》によく似た白い鳥が、
鋭《するど》く風を切って翔《か》けた。
楢ノ木大学士はそんなことには構わない。
まだどこまでも川を溯って行こうとする。
ところがとうとう夜になった。
今はもう河原の石ころも、
赤やら黒やらわからない。
「これはいけない。もう夜だ。寝《ね》なくちゃなるまい。今夜はずいぶん久しぶりで、愉快《ゆかい》な露天《ろてん》に寝るんだな。うまいぞうまいぞ。ところで草へ寝ようかな。かれ草でそれはたしかにいいけれども、寝ているうちに、野火にやかれちゃ一言《いちごん》もない。よしよし、この石へ寝よう。まるでね台だ。ふんふん、実に柔《やわ》らかだ。いい寝台《ねだい》だぞ。」
その石は実際柔らかで、
又《また》敷布《しきふ》のように白かった。
そのかわり又大学士が、
腕《うで》をのばして背嚢をぬぎ、
肱《ひじ》をまげて外套のまま、
ごろりと横になったときは、
外套のせなかに白い粉が、
まるで一杯についたのだ。
もちろん学士はそれを知らない。
又そんなこと知ったとこで、
あわてて起きあがる性質でもない。
水がその広い河原の、
向う岸近くをごうと流れ、
空の桔梗《きき
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