きなかなづちを、
持った紳士《しんし》を見ただろう。
それは楢の木大学士だ。
宝石を探しに出掛《でか》けたのだ。
出掛けた為《ため》にとうとう楢ノ木大学士の、
野宿ということも起ったのだ。
三晩というもの起ったのだ。
野宿第一夜
四月二十日の午后《ごご》四時|頃《ころ》、
例の楢《なら》ノ木大学士が
「ふん、この川筋があやしいぞ。たしかにこの川筋があやしいぞ」
とひとりぶつぶつ言いながら、
からだを深く折り曲げて
眼一杯《めいっぱい》にみひらいて、
足もとの砂利《じゃり》をねめまわしながら、
兎《うさぎ》のようにひょいひょいと、
葛丸《くずまる》川の西岸の
大きな河原をのぼって行った。
両側はずいぶん嶮《けわ》しい山だ。
大学士はどこまでも溯《のぼ》って行く。
けれどもとうとう日も落ちた。
その両側の山どもは、
一生懸命《いっしょうけんめい》の大学士などにはお構いなく
ずんずん黒く暮《く》れて行く。
その上にちょっと顔を出した
遠くの雪の山脈は、
さびしい銀いろに光り、
てのひらの形の黒い雲が、
その上を行ったり来たりする。
それから川岸の細い野原に、
ちょろちょろ赤い野火が
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